松本 純弥 先生 (カロリンスカ研究所)
海外留学報告
福島県立医科大学 神経精神医学講座
松本 純弥
私は2016年4月から2017年3月まで、スウェーデンのストックホルムにございますカロリンスカ研究所(Karolinska Institutet)に留学して参りました。研究所のスペルは英語ではinstituteですがスウェーデン語ではinstitutetです。英文表記でも固有名詞的に Karolinska Institutetと表記されます。研究所という名前でありながら医科大学となっており、医学系の単科教育研究機関としては世界最大です。また、ノーベル生理学・医学賞の選考委員会が設置されています。スウェーデンの人口は約1000万人で、ストックホルムの人口は100万人程度となっており、首都でありながら混み合いすぎることもない美しい街でした。スウェーデンの観光シーズンは日の長い夏です。冬になると日の出ている時間は短く暗くなりますが、クリスマスが近づくと伝統行事の聖ルチア祭のコンサートが、各所の有名な教会や、ストックホルム市庁舎などの観光名所で開催されるので、観光を兼ねて楽しめます。王立オペラ座やストックホルム・コンサートホールも観光名所ですが、冬であればくるみ割り人形などのクリスマス関連のバレエや、クリスマスコンサートと併せて観光ができます。ノーベル生理学・医学賞は毎年10月に選考結果が発表され、私の留学中には大隅良典先生がオートファジーの研究で単独受賞されました。授賞式のある12月にはカロリンスカ研究所の大きな講堂でノーベル生理学・医学賞受賞記念講演会が開かれるので、私も仕事の合間に勉強して来ました。
私の留学先の研究室はDepartment of Clinical Neuroscience, Center for Psychiatric Researchの中の、Lars Farde/Christer Halldin research groupでした。この研究グループには約70人のスタッフが所属していました。精神科医のLars Fardeと、神経化学者の Christer Halldinの二人によるダブルボス体制で、positron emission tomography (PET)を用いた精神疾患の脳画像研究を進めてきた研究グループです。Larsはracloprideというradio ligandを用いた、統合失調症の患者さんのドパミンD2受容体占拠率と治療反応性、錐体外路症状の出現率の研究が有名で、Christerは脳イメージングに用いられる多数のPET ligandを開発してきた研究者です。二人三脚で車の両輪のような形で研究室が運営されています。その中で私が配属されていたのは、新規ligand候補分子が、実際の脳イメージングに有用かを検討する研究チームです。マウスやラットなどの小動物PETや死後脳のAutoradiographyで臨床応用の可能性が高いとされた候補分子でも、Blood?brain barrierの種差があるので実用化できないligandもたくさんあります。また、脳のイメージングに使えることがわかってからも、脳内及び全身でのligandの動態を研究することは重要です。詳細はここでは紹介しきれないので割愛しますが、画像データの解析にはligandの薬物動態解析が前提で、3次元のデータに時間軸も加えた4次元データ解析となり、大変複雑な解析手法を学ぶことが出来ました。おかげさまで自分が解析を担当したドパミン受容体、セロトニン受容体解析に関わる関連論文がそれぞれ出版されて安堵しました。
研究室は国際色豊かで、自分のデスクがあった部屋には、日本、イタリア、台湾、ブラジルの各国から来ていた研究者がおり、5人で机を並べていました。この部屋は主に解析を担当する研究者の部屋でした。その部屋があったフロアには両ボスのそれぞれの部屋や、解析担当者の部屋が主で、他にも臨床PET研究のスタッフは中核になるメンバーが同じフロアでしたが、別なフロアにも元気な大学院生がたくさんいました。さらに異なるフロアにligandの合成開発研究に関わる化学者(Chemist)、小動物PETの研究メンバー、ヒト死後脳で新規ligandのbindingを確認するAutoradiographyのメンバーがいる部屋などがあり、多くの職種で構成される複数のチームがみんなで一丸となって、基礎から臨床の精神疾患脳PET研究に邁進していました。
最後になりましたが、矢部博興主任教授の全面的なご支援により私の留学が実現しました。この場をお借りして矢部教授に深く感謝申し上げます。