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「海外留学について」

國井 泰人

 私はψ21planプランナー会議海外留学助成のご支援のもと、平成23年5月より一年間、米国国立精神衛生研究所(National Institute of Mental Health(NIMH))に留学させていただきました。東日本大震災と原発事故後の混乱の対応などもあり、当初より一カ月以上遅れての渡米でしたが無事留学生活を送ることが出来ました。大変な状況の中、快く送り出してくださった丹羽眞一先生、矢部博興先生はじめ講座の先生方には、この場をお借りしあらためて深く御礼申し上げます。
 NIMHは米国国立衛生研究所National Institutes of Health(NIH))の一機関であり、メリーランド州ベセスダにあるメインキャンパス内にあります。NIHは国立癌研究所などの数十の施設から構成されていますが、NIMHはメインビルディングであるBuilding 10(写真1)にあります。私の所属したラボはClinical Brain Disorders Branchの中でKleinman博士の主宰するNeuropathology Sectionにあり、精神疾患死後脳を用いた多様な研究が行われています。
 日本では精神疾患死後脳を集積する体制であるブレインバンクの発展が立ち遅れていますが、当講座は、1997年に精神疾患研究のための死後脳バンク(福島ブレイン・バンク)を日本初の系統的精神疾患死後脳バンクとして立ち上げており、私も福島ブレインバンクの運営と拡充に従事しつつ、集積された死後脳サンプルを用いてドパミン系とグルタミン酸系の両方を調節する主要分子であるDARPP-32について免疫組織化学的検討を行ってきました。米国では Harvard Brain Tissue Resource Center(HBTRC), Mount Sinai School of Medicine Alzheimer's Disease and Schizophrenia Brain Bank(MSSM-BB)などの大規模バンクをはじめ大小100以上のバンクがありますが、NIMHにはNational Institute of Mental Health Brain Tissue Collection (NIMH-BTC)という世界最大のブレインバンクの一つがあり、40台以上のフリーザー(写真2)で1000例以上の死後脳を集積しています(福島では2台のフリーザーで40例)。このNIMH-BTCを統括しているNeuropathology Sectionは、研究アプローチによってさらにいくつかのグループに分かれており、私はLipska博士(写真3:バージニア州のLipska博士の自宅にて)の主導する、Molecular biologyグループに属していました。
 私はDARPP-32の発現とSNPs genotypeの関連解析というテーマで、生前の症状の詳細、治療薬、嗜好、死因などNIMH-BTCの有する豊富なデータベースとNIMH内のGenes, Cognition and Psychosis Program (GCAP)の有する統合失調症家系サンプルの認知機能測定データセットなどを駆使しながら、この大規模な死後脳サンプルを用いて、精神疾患のメカニズムの一端を解明すべく日々研究に取り組むことができました。日本で行ってきた研究を継続・発展させるのにまさしく最適な機会を得ることができた幸運に驚いています。ラボでは毎週一回、Branch meetingとSection meetingがそれぞれ開かれ、研究の進捗状況の確認とディスカッションが2時間弱行われます。また適宜Journal Clubを開催して研究テーマに応じたトピックスを研究員が共有できるようになっています。私の場合、一年間という限られた留学期間ですので、当初はどの程度まで研究を進展させることができるかという不安が大きくありましたが、幸い、国際学会での発表を経てなんとか論文作成までこぎつけることができてほっとしています。今後はこの留学で学んだアプローチを応用して福島のサンプルの解析を進めていこうと考えております。
 研究を離れると、NIHのあるベセスダから首都ワシントンDCまではmetroで30分程度であり、ホワイトハウスや連邦議事堂、リンカーン記念館などの多くの歴史的建造物や国立航空宇宙博物館、国立自然史博物館を擁するスミソニアン博物館群、ナショナル・ギャラリーなど見どころに溢れており、休日の気分転換には最高でした。また、ポトマック河畔の桜並木は圧巻の美しさで世界の名所の一つになっています。毎年3月末から4月のはじめにかけてのシーズンには「桜まつり」が開催され、全米から観光客が訪れるそうです。この桜は1912年に日本から日米友好親善のシンボルとして寄贈されたものですが、今年はそれから100周年ということで例年にも増して盛大に祝われました。 
 最後になりましたが、このような素晴らしい環境のもとで研究させていただく貴重な機会を得たことを深く感謝し、ご支援いただきましたψ21planプランナー会議の皆様に厚く御礼申し上げます。

2012年同門会誌掲載

 

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